ピロリ菌とは
ピロリ菌は、昔から胃の組織などを病理学的に調べると、胃の粘膜に存在することが知られていたのですが、この菌が、慢性胃炎や潰瘍の原因になると証明したのは、実はかなり最近のことなのです。今までは胃炎や胃・十二指腸潰瘍というものは酸の攻撃因子と胃粘膜の防御因子のバランスがストレスや鎮痛剤などの薬の影響でくずれて、生じてしまうと考えられておりました。しかし、1982年オーストラリアの研究者であるマーシャル先生らが、ピロリ菌の培養に成功し、こうした病気がピロリ菌感染にともなうものであると証明しました。マーシャル先生はその証明のためにみずからその菌を飲んで、炎症を発症させてみせたという逸話があります。
なぜ、ピロリ菌を退治すべきなのか
ピロリ菌は様々な病気の原因になります。
- 慢性胃炎(これは正直、症状はほぼでません)
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 胃ポリープ(過形成)
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
- 慢性蕁麻疹
- 機能性胃腸症
- 胃がん など
特に問題となるのは、長期的な経過を見ていくと胃がんの発生リスクが高くなることです。また、繰り返す胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因となることが多く、潰瘍を繰り返さないようにすること、そして、がんの発生をおさえるという意味ではしっかりと除菌治療を行うことをお勧めします。
どんな検査法があるの
現在、たくさんの検査法でピロリ菌を同定することが可能とはなっておりますが、基本的に保険診療を用いて調べる場合はしっかりと胃カメラを行って、慢性胃炎(萎縮)と呼ばれる変化があるかどうかを確認してからでないと自費になってしまいますのでご注意ください。
一応、胃がんリスク検診やドック、検診で調べてもらうことも可能ではありますが、最終的に保険診療で除菌治療を施す場合はやはり胃カメラでの確認が必要になります(ドックや検診で胃カメラをすでに行われている方は再度行う必要性はありません)。
内視鏡をもちいた検査法
迅速ウレアーゼ試験(RUT)
ピロリ菌が分泌するウレアーゼという酵素の働きによって作られるアンモニアの発生を調べることで、感染の有無を判断します。
鏡検法
内視鏡検査時に採取した組織を染色し、顕微鏡で観察してピロリ菌の有無を調べます。
培養法
内視鏡検査時に採取した組織を培養し、ピロリ菌の増殖があるかを調べます。
内視鏡を使わない検査法
尿素呼気試験(UBT)
検査薬を飲んでもらい前後の呼気を採取して、ピロリ菌が分泌するウレアーゼという酵素の働きによって作られるアンモニア量を調べることで感染の有無を調べます。薬の服用と息の採取だけですから、負担が少ない検査法です。
抗体測定
血液や尿にピロリ菌に対する抗体が含まれていないかを調べて感染の有無を判断します。かなり誤差がでやすい検査法ではあります。
便中抗原測定
便の中にピロリ菌抗原そのものがあるかどうかを調べて感染の有無を判断します。抗原そのものを調べますので非常に良い検査法と考えます。
その他、胃がんリスク検診について
少し簡単にふれておりますが、胃のバリウム検査以外に、胃がんリスク検診というものがあります。これは血液検査でピロリ菌に対する抗体と、胃の炎症や萎縮の度合いを反映するペプシノーゲンを測定し、その組み合わせから胃がん発生のリスクを分類し評価する検診方法です。こちらで陽性であれば内視鏡での精査が必要となります。
ピロリ菌検査の注意点
抗体以外のピロリ菌検査は、静菌作用を有するプロトンポンプ阻害剤(PPI)や抗生剤、LG-21などを服用されていると偽陰性の原因になるので2週間の投薬中止が重要です。
また、初回の除菌前感染診断時に限り、同時に2つの診断法を組み合わせることが可能で、一つの検査で数値が微妙な場合は組み合わせを行うことをお勧めします。
除菌治療に関して
ピロリ菌の除菌治療には、(少しわかりにくいのですが、薬のことを記載してしまいます)プロトンポンプ阻害剤 (ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール、そしてボノプラザンのいずれか)と、アモキシシリン、クラリスロマイシンという2種類の抗生物質を組み合わせた多剤併用療法が行われます。これら3種類の薬を1日2回、7日間続けて服用します。治療のイメージとしては、強力な胃酸分泌抑制をさせて、菌を粘膜から浮かび上がらせて、2種類の抗生剤で退治してしまうという感じであります。この1次除菌治療では約80%の方が除菌成功し、治癒します。完全に除菌治療が100%にならない理由としては、感冒などで気軽にクラリスロマイシンが投与されていることで、すでにこの抗生剤に対する耐性菌が増加してしまっていることがあげられます。
基本的に除菌治療が成功したかどうかの効果判定には、1次除菌治療終了後は治療に用いるプロトンポンプ阻害剤にともなう静菌作用が4週間程度続くために、少なくとも4週以上期間をあけてから再度検査を行い(この場合必ず内視鏡検査が必要となるわけではありません)、除菌できているかを調べます。
1次除菌治療で効果が認められない場合には、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更し、同様に1日2回、7日間続けて服用、2次除菌治療を行います。基本的に全体の90%以上の方が治癒できます。
こうした加療でも最終的に菌がきえない場合は、自費になってしまいますが、3次除菌治療導入を考えますので、2次除菌治療まで行って菌が消えなかった場合は相談をしてみてください。
治療に伴う副作用に関して
薬服用の副作用としては、軟便・下痢・嘔気・味覚障害などがあります。ほとんどは服薬終了後に自然と解消していきますが、症状が強い場合や、服薬後も続く場合には必ずご連絡ください。特に治療前に十分な問診を行わせていただきますが、ペニシリンアレルギーのある方は治療導入が不可能なのでご了承ください。ペニシリンアレルギーがあっても除菌治療を希望される場合は自費になりますがペニシリンを含まない3次除菌治療を導入しますのでご相談ください。
また、除菌に成功して胃の状態が正常に戻りつつある時期には、一時的に逆流性食道炎の胸やけや呑酸といった症状を起こすことがあります。気になるようでしたら症状を抑える処方を行いますが、ほとんどは軽く、そのうち自然に治まりますので心配はなさらないでください。
再感染はないのか 原因についても
基本的に除菌治療後の再感染はほぼないと考えてよいと思われます。
ピロリ菌の感染経路に関しては、正直に完全にはわかっていませんが、基本的には経口感染であると考えられています。具体的には、ピロリ菌の感染源として、ピロリ菌に感染、汚染された食物・水の摂取などが考えられ、その意味ではその国なりの衛生環境がピロリ菌感染に関係していることがわかっています。そのため、発展途上国においてピロリ菌感染者が多く認められます。日本においては60歳以上の80%が感染しているとされていますが、衛生環境の改善に伴い若年層の感染率は減少傾向にあり、10代以下の感染率は10%以下といわれています。
また、ピロリ菌に感染する時期としては、ほとんどの場合、免疫機構が十分に発達していない乳幼児、特に4歳以下であるといわれています。
除菌治療成功後の問題点
実は、これが非常に大きな問題であります。基本的に除菌が成功すると菌はいなくなりますが、ピロリ菌が感染していたためにきたされた胃粘膜の萎縮(慢性胃炎)と呼ばれる変化は、人によってそのまま残ってしまいます。こうした萎縮は徐々に腸上皮化生と呼ばれる粘膜に進行してしまい、そうなると、こうした変化はもとに戻ることはありません。この変化が最終的に胃がんの発生リスクとなるので、こうした萎縮をすでにきたしているような方は胃がんの合併リスクは高いと認識していただき、除菌治療が成功していても継続した胃カメラ検査を受けていただくことをお勧めします。こうした細かい問題に関しても丁寧に説明しますのでおこしいただければ幸いです。